第34章 昏睡による覚醒より
おずおずとした、どこか思い詰めた声だった。
明るかった雰囲気に、音もなく影が忍び寄る。
医師だろうか。
カルテを片手に、硬い表情をしていた。
「ここ病院やし、誰も持ってないと思うで?」
不穏な空気にいち早く反応したのはアントーニョだ。
怪訝そうな顔には、不安の影がさしている。
説明を急かされ、医師は口火を切った。
「30分前に、脳波計にノイズのようなものが発生したんです」
「ノイズ?」
アントーニョが聞き返す。
「はい。極めて不可解なことですが、それが彼の脳波に影響し、覚醒させられたというか……」
医師の言葉は、後半ひとりごとのようになっていた。
、、、、、
覚醒させられた?
その言い方って――
「ちょ、ちょっと待って! どういうこと? 覚醒させられたって、その言い方――」
声を上げたのはフェリちゃんだ。
私と同じ考えを持ったのか。
覚醒させられた、つまり、
“ロヴィーノは正常に回復したのではない”
ということを。
フェリちゃんにすぐは答えず、医師は困惑した目で続ける。
「ご説明した通り、彼の昏睡は、脳機能が破壊されたとか、薬物だとか、そういったものが原因ではありません。
神経細胞の働きが、ほとんど停止していると言っていいほど、極めて遅い。
脳が、いわゆる“コールドスリープ”にあると言いますか……コールドスリープたらしめる脳波が検出されています」
神経の電気信号で私たちは思考し、行動することができるという。
愛は電気信号でしかない、などという文句があったっけ。
そんな、場違いな考えが浮かんだ。
脳を冷凍睡眠状態にさせるような“なにか”が、ロヴィーノに働いている。
“なにか”――それは、ゴーストタウンでロヴィーノにそっくりの“彼”がもたらしたものに違いなかった。
その“なにか”を、彼は撃ったのだ。