第33章 閉じ始める序説まで
「怪我も特にないようですね」
「はい。外傷は見当たりませんけど……」
菊の言葉に、ロヴィーノが撃たれたことを思い出す。
外傷は、なかった。けれど――本当になんともなかったのだろうか?
それから、“あの感覚”も想起させられた。
体中をエネルギーの奔流が荒れ狂い、偽のロヴィーノを吹っ飛ばした――あの感覚を。
そのことについて、誰かが触れるような、興味を持つような、そんな素振りが、ない。
『まあ、異世界人の“公子”なら、そんなことができてもおかしくないな』
と、一同の顔が語っていた。
おかしい、それは間違ってる、誰かつっこめよ。
おそらく麻痺しているのだろう。
異変によってフシギなことが起きすぎて、もはや私に関わる諸々のフシギは「考えるのをやめた」枠に追いやられているのかもしれない。
自分の世界で精一杯な彼らには、当然かもしれないが、なんだかさみしいぜ……。
「いずれにせよ、ロヴィーノ君は一度病院で精密検査を受けるべきです」
「んな大仰な……」
菊の言葉にロヴィーノは否定気味にこたえるが、顔には不安げな陰が落ちていた。
彼自身も様々な憶測を抱えているようだった。
私も、フェリちゃんも、フランシスも、皆が同意する。
心配MAXされている場の空気に、ローヴィノは渋々頷いたのだった。
そんな、どことなく微笑ましいような雰囲気を、
「――おなか減ったんだぞッ!」
ずっと黙っていたアルが、盛大にぶち破った。