第32章 回帰と代入と
「……に……い、ちゃん」
フェリちゃんが、夢から覚めたように、ゆっくりと呟いた。
目は見開かれ、睫毛が小さく震えている。
覚束ない足どりで、一歩、踏み出した。
ふらふらと、二歩。
そしてそのまま前に倒れこむように、ロヴィーノに抱きついた。
「……兄ちゃん……兄ちゃん……っ!」
ロヴィーノの胸に顔をうずめ、存在を確かめるように、何度も何度も繰り返し呼ぶ。
二度と離さないとばかりに、ひしっと力強く抱きしめる。
そんな反応に、はじめロヴィーノは驚いていたが、やがて“弟に心配をかけてしまった兄”の顔になった。
「フェリシアーノ……」
そこへ、どこか困ったような、照れたような表情が浮かぶ。
傍から見てもギューッっと抱きついているため、ヘタしたら痛いかもしれない。
しかし、いつものような悪態をつくこともなく。
ちょっとためらったあと、まるで悪夢を見た子どもをあやすように、フェリちゃんの頭をぽんぽんとなでた。
瞳には、たしかな嬉しさがにじんでいた。
よかった――心の底から、そう思った。
、、、
と同時に、もし無事に再会できていなかったら……それを考えて、全身の血が凍りつくようだった。
抱き合う二人を見ていると、
――戻ったら、そこに騒々しい一人が加わるだろうことを思うと――
ここに来るまで冒してきた危険も、これから迫るどんな危険も、なんだって構うものか、そんな思いがこみ上げた。