第32章 回帰と代入と
「ロヴィーノ! 大丈夫!?」
「……い……生き、てんのか、俺……?」
ロヴィーノは恐怖に満ち満ちた口調で、“撃たれた”箇所らしき後頭部に、恐る恐るふれる。
予想にありがたくも反して、出血もなく無傷だった。
おかしいぞ? とでも言いたげな表情をしている。
よかった――けども、不可解だ。
他に弾痕はなく、外したようではない。
、、、
彼はなにを撃ち込んできたんだ?
引っかかる。
弾丸なんかより、もっと恐ろしい“なにか”だったら――
ガッシャアアアアアアアアアアアアンンン!
「ッッッッしゃああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
突拍子もない二連続音に、一瞬思考停止する。
窓ガラスが割られ、破片が空中に飛び散った。
目の前を透明なカケラがきらきらしながら落下していく。
灰色に光っているのは、曇り空の反射だろうか。
それをぼんやり目で追っていると――灰色が、鮮やかな緑色に変容した。
宝石のペリドットのような色彩、やんちゃにキラキラ輝く瞳――の上の、太い、常人離れした、主張の強い、眉毛――
「よう、待たせたな」
「「ア……アーサー!?」様!?」
呆気にとられた私とロヴィーノが、きれいにハモった。
その反応を喜ぶかのように、吊り上がった口の端がさらに意地の悪い笑みを描く。
というか……なぜガラスをぶち破ってダイナミック入室してきたの?
「この大英帝国サマが来たからにはもう安心だぜ!」
「ヴェエ~いくらなんでも派手すぎだよぉ!」
その後ろから現れたのは、泣き顔で抗議の声をあげるフェリちゃん。
せっかく格好つけて登場したのに、相方の登場方法が不満らしい。
アーサーはフェリちゃんの首根っこをぐいと掴んで、自分のもとへと引きずってきた。
懐かしさすら覚えるほど、安心する声、姿。
光が差し込む窓を背にして、ふたりが立っていた。