第32章 回帰と代入と
うしろから羽交い絞めにしてきたのは、ロヴィーノだった。
けれど目の前にもロヴィーノがいる。倒れている。右腕がおかしな方向に曲がっている。
なにが起きているのか、あるいは起きたのか、頭の中はめちゃくちゃだった。
「……は、なして」
「もういい! 十分だ! だからもう――」
やっと絞り出した声はすぐに否定される。
こわばる私の腕を拘束する手は、震えていた、
「頼むから……戻ってきてくれよ……」
睨みつけていた眼前の光景を、もう一度網膜に映す。
割れたコンクリート。散らばるガラスの破片。黒い亀裂が地面からのぼっている壁。それらに飛び散る、赤い飛沫。
そして、壁に背をもたれている“彼”。
右腕――と、あと右足が、普通ではありえない方向にぐにゃりと曲がっていた。
祈るような懇願に、広がる視界に、全身を支配していた熱がすっとひいていく感覚がした。
ロヴィーノ、と言おうとして、
「――っ!」
世界が急加速して、体が横に飛んだ。
床に衝突する前に、左腕をあげて銃を掲げる“彼”が見えた気がした。
ドン、と地面に転げる音と、発砲音が重なる。
反射的につむった目をひらく。
私はロヴィーノに抱きかかえられるようにして、半ば横に突き飛ばされたらしい。
瞬時に恐ろしい推測が脳裏をよぎる。
――“彼”が私を撃とうとして、それをロヴィーノがかばったのでは?