第32章 回帰と代入と
痛みと混乱で思考が停止する。
私と同じように、隣でうずくまっているロヴィーノ。
無表情に立っている“ロヴィーノ”。
舞い上がる埃に咳き込みそうになりながら、思考より、足が勝手に立ち上がろうとする。
しかしすぐ床に押し返される。
目に見えない大きな手に押さえつけられているような。
自分の体重が象ほどにもなったような。
身動きが取れず、ゆっくり歩み寄ってくる“ロヴィーノ”を茫然と見ていることしかできない。
彼が近づくたび、透明な手はどんどん重くなっていった。
座りこむ体勢すら維持できなくなっていく。
かたわらのロヴィーノが私に手を伸ばしていた。
震える指先が私の腕をかすめる。
「お前……だけで……も」
苦痛に歪んだ顔と声。
それを見た彼は――憐れむような嘲笑で、口の端を吊り上げた。
瞬間、頭の中でなにかが弾けた。
一瞬にして脳が“怒り”に焼き尽くされる。
全身の血が沸騰し、血管内を加速するような、莫大なエネルギーが体を突き破った。
怒り――殺意に似た破壊衝動が、思考能力を排除して、脳を占拠する。
だから私は、彼がうしろに吹っ飛んだことを、いや、“私が吹っ飛ばした”ことを理解するのに、数秒を要した。