第32章 回帰と代入と
「ち、地上……か……?」
膝に手をつき、息荒くロヴィーノが尋ねる。
階段の終わりには、広い踊り場が待っていた。
私は頷く。
何階分駆け上ったかはわからないが、窓があり、ここが一階であることを示していた。
窓から外を覗くと、もうもうと煙が上がっている地点がいくつか見えた。
自分の感覚と、覚えている限りの建物の風景を照らし合わせる。
感覚は正しかった。
おそらく、テレポート地点はすぐ近くのはずだ。
それを伝え、一刻も早く向かおうとロヴィーノの方を振り返ると、
「公子っ!」
恐怖に見開いた瞳。
割れるような悲鳴。
そして間もなく、背中に鋭い軌跡が走った。
「……ぁ……っ」
一瞬呼吸ができなくなる。
衝撃に前のめりになり、倒れそうになるのをどうにか踏みとどまった。
今にも崩れそうな足で、緩慢に体を後ろへねじる。
、、
それを認識したとき、自分の呼吸が再び止まるのを感じた。
「ロヴィー……ノ……?」
目の前の人物は――ロヴィーノと瓜二つのそいつは――返事のかわりに、表情のない顔で右手をこちらへ向ける。
すぐ真横を空気の塊が突き抜けた。
ドン、という鈍い音と、呻き声。
「……に……げ、##AME1##…逃……」
「あなたは、誰なの?」
「逃げ……ろ」
背後のかすれ声が、衝撃音に殺されて聞こえない。
透明ななにかに吹っ飛ばされ、私は壁に叩きつけられた。