第30章 条件制御エミュレータ
――止めなくちゃ!
足音を最小限立てないようにして駆ける。
あと数歩のところで走るのをやめ、一歩ずつ近づいていく。
アーサーが走り出そうとするその瞬間、フェリシアーノは彼の肩を掴んだ。
「ぎゃぁ――んぐ」
「静かに!」
驚いたのか絶叫しそうになったアーサーの口を塞ぎ、そのまま建物の影へ引きずり込む。
向こうの死角に入ったところで、アーサーが暴れだした。
押さえつけていた手を離すと、アーサーの驚愕と怒りに歪んだ眉が、ゆっくり困惑の形をとっていく。
「っにすんだよ! ……って…………は? え……?」
「証拠は出せないけど、『俺が本物だよ』」
突然のことに怒ろうとして、しかしフェリシアーノの顔を見、さらにおずおずと建物から向こうの二人を覗くと、アーサーは口をぱくぱくさせた。
フェリシアーノは、まっすぐアーサーを見つめて言う。
「このまま行ってもやられちゃう。あいつは武装してる」
「ちょ……ちょっと待ってくれ、思考の整理が――」
「でも殺傷目的の武器じゃなかった。だから公子ちゃんがすぐ殺されるようなことはないと思う」
「――なんで知ってんだ?」
そう言うのが精一杯のように、アーサーはやっと声を搾りだした。