第30章 条件制御エミュレータ
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寒々しい、どんよりとした曇り空。
目に落ちてきた灰色に、靄がかった思考が徐々に覚醒していく。
「……あ、れ」
どのくらい意識を失っていたのかわからない。
数分にも数時間にも感じられ、フェリシアーノは自分が仰向けに倒れていることに気づいた。
瞬間、上半身が跳ね上がる。
反射的に額に手をやるが、血も出ていなければ、痛みもなかった。
「俺……撃たれたんじゃ……?」
たしかに、自分と瓜二つの顔をした“彼”は、銃口を向け、それを笑みなんか浮かべながら放ったはずだ。
意識を失っただけで、外傷はない。
アントーニョが言っていた麻酔銃だろうか。
三日間眠る効果があると言っていたが、欠陥品だったりするのだろうか(ありうる……)。
すべてが夢か幻覚か、そう思い始めたとき、フェリシアーノの視界の端でなにかが動いた。
「っ!? あいつ――」
“彼”と公子だ。
“彼”が公子を壁に押しつけているようにも見える。
そして、少し離れた場所から、今にも駆け寄ろうとしているアーサー。
ためらうより先に、フェリシアーノは走り出していた。