第30章 条件制御エミュレータ
フェリシアーノは前髪を上げ、傷ひとつない額を見せる。
「さっき撃たれたんだ」
「は!?」
フェリシアーノのあっけらかんとした声音に、アーサーは思いきり声をあげた。
「額にね。バシッときた。でも今のところ異状はなにもないよ。推測だけど……強力な麻酔銃だと思う」
「麻酔銃って、それ……」
「とにかく、気づかれないように後を追――」
フェリシアーノの言葉は、そこで途切れた。
ぐらり、体が傾く。
折られたように膝が地面に落ち、そのまま体ごとくずおれた。
「っ――!?」
アーサーは背後に気配を感じ、ハッと身を翻したが、遅かった。
首に冷たい衝撃が走る。
柔らかな、それでいて実体が希薄な、不思議な感覚。
右半身にドシンとした痛みを感じ、自分が倒れたのを理解した。
フェリシアーノが、すぐそばで倒れている。
瞳には……あぁ既に光はない。
急速に刈り尽くされていく意識の中、残された力を振り絞って“そいつ”を見上げる。
特にスタイリングされていない金髪、高慢そうな緑眼、薄い嘲笑を浮かべているようにも見える唇。
“そいつ”はアーサーと全く同じ顔で、もう一度トリガーを引いた。
それがアーサーに見えた最後の景色だった。