第30章 条件制御エミュレータ
「答えて。知ってるんだろ、兄ちゃんはどこ? 兄ちゃんになにをしたの?」
「そんなに知りたいなら、なんでソレを使わないんだ?」
彼が顎で、フェリシアーノの腰の銃を示す。
ハッと思い出したようにフェリシアーノが手を伸ばすより早く、彼が銃口を突きつけていた。
銃口を前に、フェリシアーノの動きが凍る。
銃を抜く前の体勢で、とまる。
「お前の覚悟を教えて」
にこやかに銃を構えたまま、彼はそう告げた。
けれど、フェリシアーノの腕はぶるぶると震えたまま、銃にたどり着けない。
動けば撃たれる、しかし銃を手にしなければ先はない。
そんな葛藤と恐怖が汗となって、フェリシアーノの頬を伝う。
沈黙が続く。
――彼の微笑に、失望の影が落ちた。
……――パンッ
軽い音が弾けた。
フェリシアーノの額に不思議な感覚が衝突する。
冷たいような、酩酊感のような、思考能力を溶かす形容しがたい感覚。
――俺、撃たれちゃった?
フェリシアーノには、彼が引き金を引いたことしわからない。
けれど、それで十分だ。
意識が蝕まれていく。
――ルートに銃、返せないな、また怒られちゃうな――
手足の感覚と意識が、暗がりへ落ちていく――……