第30章 条件制御エミュレータ
「……だっ誰、だよ……お前――っ」
動揺するフェリシアーノとは対照的に、彼はにこやかな笑みをたたえたままでいる。
それがかえって不気味さを増していて、フェリシアーノは喉がひきつるのを感じた。
「彼女が憎くないの?」
「……え?」
彼は質問に答えず、そんなことを言った。
「お前は怒ってないの? 公子ちゃんが違う、もっとしっかりした行動を選んでいたら、兄ちゃんはこんなことにはならなかった。そう思わないの?」
無邪気そのものの声音で、彼は優しく尋ねる。
彼は頭のてっぺんから爪先まで、フェリシアーノとそっくりそのまま同じだった。
鏡に映したように、全く見分けがつかない。
けれどただひとつ――瞳だけが、同じブラウンでも違う気がした。
彼の瞳は、死者のように空虚だ。
「……兄ちゃんをどこへやった」
「……」
彼は唇を閉じた。
薄い笑みを浮かべたまま、フェリシアーノを真っ向から直視する。
その視線は、自我や思考を削るように、フェリシアーノは感じた。
ずっと見ていると、催眠状態になりそうな――本能的な危険を覚える。