第30章 条件制御エミュレータ
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「くそっ!」
悪態のままに、アーサーは壁を叩いた。
「あいつらどこにいやがる!」
川に飛びこんだとき、なにかが違う気がした。
いつもの、彼が知っている移動と、なにかが違っていたのだ。
その違和感を象徴するように――公子とフェリシアーノの姿が見えない。
一緒に、同じタイミングで移動したのだから、離れ離れになるはずがないのだ。
少なくとも、彼の考えではそうだった。
しかし、辺りにはアーサー以外、人っ子一人いない。
眼前の町並みは、一見して普通だ。
アスファルトにレンガ造りの建物、街路樹、街灯、曇り空、遠くにはビルも見える。
見慣れた郊外の風景だ――車も、人もいないことを除いては。
「どうなってんだ――ん?」
歩いていた彼の足が、ふと止まる。
「あれは……なにしてんだ!?」
アーサーの視線は、やや離れた前方の角、その入口に注がれていた。
そこには公子とフェリシアーノがいた。
かと思うと、フェリシアーノが公子を壁に叩きつけるような動作をした。
「あいつ……テレポートして頭でもやられたのか!?」
遠目でよくわからないことにアーサーは舌打ちする。
星の杖を取り出し、二人のもとへ走り出した。
しかし彼は、背後から迫る影に気づいていなかった。