第30章 条件制御エミュレータ
「よかった! 誰もいなくて驚い――」
私は言葉を続けることができなかった。
突然、圧迫感が首にのしかかってきたからだ。
同時に背中が壁に叩きつけられる。
なにが起きているのか、すぐには理解できなかった。
首の骨と肉が、ぎちぎち一緒に押しつぶされて痛い。
血が頭にのぼり、じわじわとした鈍い痺れが顔にひろがっていく。
「う……ぁ……っ」
反射的につむった目をひらく。
目の前には、無感情に私を見つめる、フェリちゃんがいた。
彼の両手は、私の首を隙間なく締め付けている。
「ふぇ……り、ちゃ……」
満足に声が出ない。
それどころか、酸素が肺にまわらない。
なぜか脈拍のリズムがおかしくなったように感じた。
空気を欲して脂汗がにじむ。
……どういう状況なんだ……?
彼の目は、ひどくつまらないものを見るようだった。
けれど奥底に、静かな憎悪があるようにも見えた。
その音のない感情は、私の抵抗に目もくれず、淡々と空気を奪い続ける。
――私が憎いよね……
視界が霞む。
意識が遠のいていく。
最後に、彼の口の端が歪むのが見えた。