第30章 条件制御エミュレータ
静かすぎる――
そんな違和感を、まず覚えた。
無感情な風の鳴り、それだけが不気味に耳に響いてくる。
「フェリちゃん? アーサー……?」
周囲を見回すが、二人の姿はない。
見るのが三度目となる街は、全く人の気配がなかった。
街路樹の葉がときおり風で掠れるだけ。
他は死んだように黙っていて、よくできた立体映像を見ているような気分になる。
「いないの……?」
立ち上がりながら、不思議と自分が落ち着いていることに気づいた。
確かに、ゴーストタウンに来れた。
見覚えのある町並みから、一回目と二回目と、そう変わらない位置にいるようだ。
よって“戻る”位置もここだ。
目印の赤褐色の屋根を注視しつつ、ゆっくり足をすすめる。
二人はどこだろうか。
まさか一緒に来れなかったのだろうか。
それとも、離れたところに飛ばされた?
考えを巡らせながら角を曲がると、前方の少し離れたところに、フェリちゃんの背中を見つけた。
「フェリちゃん!」
自分以外を見つけた嬉しさで、思わず声が上がる。
私は急いで駆け寄った。