第29章 for dear my imaginary blank
「っ!」
フェリちゃんの声と手で、ハッと我に返る。
危うく私は、手すりを乗り越えようとしていた。
前から肩を抱くフェリちゃんに、心配そうに顔を覗きこまれる。
「大丈夫? 無理してない?」
「は、はい……大丈夫です、行けます」
「……ありがとね、公子ちゃん」
「え?」
「でもちゃんと、俺に守らせて?」
くすりと微笑するフェリちゃんに手を引かれ、手すりから下がらされる。
わかる。私には、わかる。
消失点が、この薄蒼い水底に、確かにあることが。
フェリちゃんは黙って川を見ていた。
無表情に、穏やかな瞳で睨んでいた。
――でも彼には、なにが見えているんだろうか?
「じゃ、行ってくる」
銃の最終確認をして、アーサーが宣言した。
と、ルートがフェリちゃんに、おもむろになにかを渡す。
フェリちゃんは驚いてルートの顔を見た。
「これ、ルートが大事にしてる銃――」
「きちんと返せ。わかったな」
厳しい声音で短く言うルート。
そんな彼に、フェリちゃんはまず苦笑して、つぎに眉を下げて泣きそうになって、さいごに100パーセントの笑顔でこたえた。
「……うん、もちろん!」