第29章 for dear my imaginary blank
めいめい支度を終え、玄関に出る。
最後に出た菊は、浮かない顔のまま、鍵を閉めた。
向かう先の川はやや大きめで、橋がかかっている。
その川の流れの、ある地点が消失点らしく、身を乗り出して、まぁ、飛び込むらしい。すごいイヤ。
「んな顔すんなって菊、公子を信じろ」
「わっ私ですか!?」
「他に誰がいるってんだ――お! 感じるぜ、まさしく消失点だ!」
「……公子ちゃん、やっぱりお兄さんも一緒に行こうか?」
テンションが上昇中のアーサーとは対照的に、他の皆は一様に不安げな影を濃くさせる。
せせらぎ、というよりはザーザーした流れ。
ゴツゴツした岩、石はないが、それが逆に深さを物語るようだ。
――本当にやるの?
いろいろな意味で鬱々と水面を見下ろしていると、
「……?」
ふいに、水の揺らぎが緩慢になった錯覚に陥った。
例えるなら、文字のゲシュタルト崩壊のような、不可思議な感覚。
吸い込まれそうなキラキラした太陽光の反射が、水流の音が、風が、心地よい目眩を引き起こしていく。
――この感覚を、私は知っている――
「公子ちゃん!」