第29章 for dear my imaginary blank
そう言って、アントーニョに向き直る。
息を止めたような動作ののち、アントーニョの手をとった。
彼の肩がびくっと跳ねる。
「――絶対、連れて帰ってくるから」
手を握りしめ、フェリちゃんは力強く微笑んだ。
そしてパッと離し、今度は私とアーサーの手をとる。
「じゃみんな、行ってくるね!」
「おいっ、ばか離せ!」
そのまま手を振るものだから、私たち三人は万歳しているような格好だ。
それがおかしくて、彼の手のひらから伝わる温度が暖かくて。
――うん、絶対に。連れて帰ってくる
きっとロヴィーノは、ひょっこり現れて「……迷ったりしてねーぞちくしょー」なんて言うんだろう。
それから戻って、フェリちゃんにパスタを披露するのだ。
異変はひととき忘れて、みんなで騒いで――
「覚悟は決めたか?」
消失点を使う覚悟か?
ゴーストタウンへ行く覚悟か?
それとも――
「もちろんです」
アーサーの声、瞬間、水面から光が湧きあがる。
足が浮く、落下、迫る水面。
誰かの笑い声が川の音に紛れる。
水飛沫のかわりに、何度目かの揺らぎが意識を奪った。