第29章 for dear my imaginary blank
それを満足そうに見届けると、アーサーに向かって
「決まりだね」
と進行を促した。
その目は意見も反論も聞こうとしない、強い光を宿していた。
それをみとめ、アーサーは反論をため息とともに吐き出す。
彼は戸惑いつつも、全員に異論がないことを確かめ、携帯端末を取り出した。
タッチパネルを操作しながら、口をひらく。
「俺なりの考えを述べる。
公子は“移動”を感知、操作できる。消失点、再帰点問わず、無意識にな」
なんだかすごい役割を期待されてしまった。
移動を意図したことはないが、移動の回数を重ねるたび、結果的に“私”に都合のいいように移動が起きている。
親分に手を引かれて“戻る”ときも、どこかで戻ることを望んでいた。
全く私のコントロール外にあるのは“元の世界”への帰りの移動くらいだ。
「だから、救出案は簡単だ。
“そこ”へ行く、探す、連れ帰ってくる。これだけだ」
「惚れ惚れするほどカンタンねぇ」
「うっせーぞ髭! 俺だって感知できるし、いざとなりゃ銃もステッキも手に取る。
で、だ。ここから近く、消失点と再帰点間も近い場所がちょうどある」
「ま、まさか、アーサーさん!?」
突如菊が悲鳴じみた声をあげる。
顔を青くさせ、信じられないとでも言いたげにアーサーを凝視していた。
そんな菊に構わず、アーサーはビシッと窓の外を指さす。
真っ直ぐ伸びた指先は、川を指していた。