• テキストサイズ

深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第9章 沈む、沈めない、沈む




お祭りもほどほどに楽しんで、帰路について。
次のデートのときは絶対に携帯の充電をしっかりしておく事、を3回言われた後、部屋に帰った。

「つっかれた〜」
慣れない浴衣と下駄で疲れた体をほぐすようにストレッチ。ローテーブルに置いてあった携帯をふと手に取り、今日2人で撮った写真を見返し、小さく笑う。

ーーー

「知らないかもしれないけど、付き合う前からいーっつもアキラ先輩、スケボーで帰ってく先輩の事見てたんですよ。」
「あー、たまに2階から声かけてくれてたもんね。」
「ちがうちがう、声かけてた日以外も。」
「え?」
「でね、そんとき、アキラ先輩…」

「びっくりする位、悲しい顔してたんですよ。」

「悲しい、顔?」
「そ、今にも泣きそうな位悲しい顔。相当先輩の事、好きだったんだな〜って思って。」
「そ、っか…」

ーーー

(そんなの、考えられないくらいの笑顔だ。)

写真を見て、今日の朴の話を思い出し、胸が締め付けられるようだった。

『だから、先輩と付き合って、また太陽みたいに笑うアキラ先輩が見れて、嬉しいんです。』

(違うよ、朴。)

ぼす、とベッドに体を預ける。
「まだ、太陽には届かないんだよ、きっと。」
ぽつり、独り言のように呟く。

(アキラは、今でもたまに切なそうな顔をするよ。)
こんなにしあわせものなんだから、早く、早くアキラだけを見つめられるようにしなきゃ。

アキラと幸せになるたびに、先生への気持ちを毎晩深海に沈めてるのに、
どん底にタッチしたら、もう何も怖くないって思ったのに。

青紫の深海は、どこまでも深くて。
そして、どんどん違う深みに嵌って行くような気がして。

(どっちが、好きなの…?)

私はゆっくりと目を閉じるだけだった。
(続)
/ 78ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp