第9章 沈む、沈めない、沈む
*
「!」
血相を変え、息を切らしたアキラが私と朴の居るベンチにやって来たのは、それから直ぐの事だった。
「朴おめーも電話でろよ!クッソ心配したじゃねえか!」
「え?電話?」
朴が携帯を取り出すと、画面いっぱいの不在着信。私は思わず苦笑いして、2人に頭を下げた。
「も、全然連絡つかねーし…!」
「アキラが、友達と仲良さそうにしてたし悪いな、って…電池切らしてごめんね?朴は悪くないし、朴にはそんな言い方はしないであげて、ね?」
両手を顔の前にあわせて、ごめん、と謝ると、アキラもばつの悪そうな顔をして、頭を掻いた
「…や、そうだな、俺も悪いや。ごめん…。」
暫くの沈黙を破ったのは朴だった。
「やっだ〜!2人ともくらい暗い!別に僕も先輩に手出したりしてませんし安心してくださいよ〜」
「いや、むしろ相手してくー…」
「でも〜」
朴は私の言葉を遮るように言葉を紡ぐ
「内緒のお話は、しましたけどね?」
にっと笑って、首をかしげてアキラを見る朴。
「内緒の?」
「そ、内緒のです〜アキラ先輩には内緒〜」
ね、先輩。と微笑みかけられ、反射的にうなずいてしまう。
「じゃ。お邪魔虫はこの辺で〜!アキラっちょばいばーい!」
「あ、てめ!先輩に向かってアキラッちょとはなんだおまえ!」
ぴょんぴょんとはねるように去る朴の背中を見つめる。
くっそ、あいつ…とぼやきながら、私に背を向けたまま言葉を紡ぐ
「…まあ、無事でなにより。」
アキラはガリガリと頭を掻きながら、私の手を引いた。
「…心配だから、今日からはこう。」
指を絡めるように繋がれた手をみて、むず痒い気持ちでいっぱいになる。
「…す、すいませんでした。」
「こちらこそ。」
何となく謝って、ちらと斜め後ろから見えたアキラの耳は真っ赤で。
(…しあわせもの、なんだな。)
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