第9章 沈む、沈めない、沈む
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出店通りの裏側、神社のほこらの前の小さなベンチに腰掛ける。
「おじちゃん、この2発いらないから、ライターちょうだい?」
おじちゃんは一瞬驚いた後笑って、マッチ箱を一箱私に放り投げてくれた。
「あんがと。」
で、今に至る訳で。
(うっま〜)
吸う気分でもなかったけれど、あったらあったで美味しいなんて罪。
私はもう一度マルボロミディアムの箱を見る。
(よく先生と吸ってたっけ。)
ふふ、と小さく笑って、揺らめいて昇る煙を見る。
(結局、全然踏ん切りがついていない。)
アキラの前では極力先生の話をしなくなった。
気持ちに整理もついてると思ってた。
(でも、もうちょっとだ)
もうちょっとで、海の奥底に辿り着くんだ。きっと。
ふ、と小さく息をついて、前を見る。
あ、アキラに連絡入れなくちゃ。そう思って携帯を開く。
『人ごみしんどかったから、屋台通りの裏手に居るよ〜』
それだけ一度送ったあと、大体どの屋台の裏に当たるかを打とうとしたとき、携帯の画面がブラックアウトした。
(あ、電池…)
一瞬ひやっとしたが、仕方が無い。暫くはここに居ようと決心したときだった。
「そこの綺麗なお嬢さん、高校生の喫煙はいけませんよ?」
狐のお面を着けた男の子が、私の横に腰掛けた。
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