第9章 沈む、沈めない、沈む
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お祭りってこんなに楽しかったんだ。
心地いい喧噪のなかで私はぼんやりそう思う。
甘いものがあまり得意でないアキラが私の綿菓子を一口つまんで渋い顔をしたり、じゃんけんに勝って大きなフランクフルトを買ってもらったり、アキラは意外と金魚すくいが上手だったり、色んな一面が見れて、とても楽しかった。
どんなときでも、出来る限り手をつないでくれたり、後ろを振り向いてくれたりして、そういう優しさにも緩やかなときめきを覚えた。
(こうやって、どんどん好きになれば良いんだな)
霞む青髪をかき消すように私はアキラの手をぎゅっと握った。
そんなときだった。
「アキラ!」
見知らぬ男の子達がアキラに声をかけた。
「お!ひっさしぶりー!何してんのさ!」
「お前こそ、彼女〜?」
急激に盛り上がる彼らをぼんやりと見つめていたが、会話の流れからどうやら小学校の同級生らしいという事だけは分かった。
「でさ、あれが…」
「は!?あんときからかわってねーの!?」
随分久しぶりに会うようで、彼らの邪魔をするのは悪いな、と思い、アキラに声をかける。
「私、そこの射的してきてもいい?」
「あ、おう!悪いな、すぐ迎えに行くから!」
私は彼が視界にとどまる程度の距離にあった射的屋さんにふらとたちよる。
(あ…)
このご時世、珍しい煙草の景品。
(マルボロ、か。)
私はおじさんにお金を払って、銃を構える。
(昔っから、これだけは得意だったんだよね。)
台と接着されてなければ、一発。私はそう思い、煙草めがけて引き金を引く。
こつん。
情けない音とともに台の後ろに落ちて行く煙草。
「すごいねえお嬢ちゃん!」
後2発はどれを狙うのか、と聞かれたとき、もう一度アキラの方を見た。
(まだ熱が冷めそうにないかな。)
「おじちゃん、この2発いらないから、ー…」
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