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深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第8章 闇夜に溶かして




「夏祭り?」
「そ、夏祭り。」

夏休みもあと数日。そんな頃にアキラから提案されたのは夏祭りだった。

「学校の裏手に神社があるんだけど、そこで毎年大きいお祭りやってんだってさ。明日から3日間、かな?」
「いったことあるの?」
「いや、俺もなくてさ、折角だしと思って。」

寮の窓を開けて外を見る。夜風が気持ちいい。
(浴衣…持って来てた気がするなあ)

「…人ごみ、嫌い?」
電話越しに、アキラが不安そうな声を出す
「ううん、行きたい、ただ、浴衣どこにやったかなーって。」
「浴衣!」

アキラの声色が弾む。
「え?」
「、浴衣着てくんの!まじかぁ…!」
嬉しそうな声につられて笑う。

「アキラは?甚平?」
「えー!俺持ってたかな…」
最悪タツキ先輩あたりの家いきゃあるだろ!と適当な事を言いつつも、浮かれているのが電話越しでも伝わって来て。

「浴衣何色なの?」
「確か…黒地に赤帯、かな?」
可愛くないよね〜とけらけらわらうと、アキラは大声で笑った。
「いーや、絶対お前はそっちのが似合うよ、ぜってー綺麗!」
はずかしげも無く褒めるものだから、ちょっぴりむず痒くて、

「じゃ、明日、6時位かな?寮でたとこで!」
「うん、りょーかい。」
「あ、」
「なーに?」

「…おやすみ」

頭を撫でるような声が、くすぐったい。
「アキラも、風邪ひかないよーにね。」
「もーちろん!明日超楽しみにしてっから!」

ぴ、と通話を終えて、私は小さく笑った。
(今日は、夜空も怖くないなあ)
ぴったりと、気持ちに蓋を出来たみたいだ。
私は左手をゆっくりと見つめ、あの日のアキラの手のひらのぬくもりを思い出す。

(…頑張って、みようかな。)
もっと、前向きに、気持ちに応えてみようかな。



(せんせ、私、良い恋をしようと思います。)

(続)
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