第7章 深海に沈めて
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「…アキラの馬鹿」
「恋煩い?」
「!!」
立ち上がったのに座って、机に突っ伏したと思えば、赤髪の彼の名前なんか呼んでしまうもんだから、ついつい突っかかっただけだった。
(あの時既に、付き合う覚悟きめた後だったなんてね。)
「良い恋をしなさいよ。」
心のどこかで、その台詞の後に付け足していたんだ。
良い恋をしなさいよ、俺に。
大人ぶって何とも、情けない結果になってしまったなと感じる。
そもそも好きになった時点で体裁上以外では歳の差とか考えてなかったし、直感的に動きすぎるのも俺の悪い癖。
第一生徒の煙草も黙認…どころか吸う時間、スペースを与えるなんてね。
「…ま、いっか。」
考えるのも疲れたや、なんて大人げないことを思って俺はゆらゆら昇る煙を見つめた。
そもそも付き合えるとは思っていなかった、けれどどこかで心地よさを求めていた。
「悲しい独身男性に成り果てたもんだ…」
ざ、っと灰皿に煙草を押し付け、ゆっくり息をつく。
気持ちを殺すのはそれなりに慣れたはずだから…今度こそそう自分に言い聞かせて俺は目をつぶった。
深海に落とし込むように、彼女への気持ちをゆっくり、ゆっくり鎮める。
「…泣けるなぁ」
ふ、と小さく笑って、冷めたコーヒーに口をつけた。
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