第7章 深海に沈めて
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夏休みも中盤に入り、アキラの出るステージで見に行けそうなものは大体顔を出した。
最初はどうしても揺れる白衣を目で追っていたけれど、鎮めた気持ちとその意志は強くて、ぼんやりと赤髪の方が目に入るようになった頃だった。
「今日もお疲れさま。」
「おう!あ、差し入れマジで持って来てくれたの?ありがと。」
楽屋前で、アキラに差し入れのクッキーを渡す。料理はあまり得意じゃないんだけれど、彼氏の為に、と頑張って作って。
「あー!先輩!」
楽屋前でアキラと喋っていると、朴が飛びついて来た。
「あら、さん、見に来ていたんですね。」
「お、朴に泉〜。お疲れさま。」
「アキラ先輩にクッキー!?いいないいな僕たちの分は!?」
朴はがばっと身を乗り出し、アキラの手元のクッキーをめざとく見つける。
「多めに作ったから、みんなで分けて。」
「あ、アキラの彼女さんだ!」
女の子のような甲高い声とともに、揺れる綺麗な金色の髪がひょっこり見える。
「あ、榊原先輩…ですよね、アキラからよくお話は聞いてます。」
三年生とあまり交流の無い私は、ぺこっと一度頭を下げた、のだが
「お!ちゃん!」
顔をあげた瞬間に聞こえた声は、聞きたかったような、聞きたくなかった、声で。
「あ、せんせ。」
「彼氏に差し入れか!普段は割とずさんなくせに〜出来た彼女だな〜!」
けれど、何一つ違和感の無い語気に、心の中でほっと胸を撫で下ろす。
「そう言う言い方ないんじゃないですか?せーんせ。」
私もふざけて切り返した後、ね、アキラ。とアキラの顔を見る。
(…なーんでアンタが、悲しそうな顔するんだか。)
優しいアキラに、ふと笑みがこぼれた。
「そうだ、打ち上げ。」
先生が人差し指を立てる。
「ちゃんもおいでよ。彼女特権。」
「え、ありがたいですけど…榊原先輩とかあまり面識も無いですし」
「いーよいーよぉ!アキラっちょがどんな子と付き合ってるのかも知りたいし!」
にっこりと、これまた女の子のような笑顔を向けて榊原先輩は笑った。
「あと、タツキでいいよ!ちゃん!」
名前で呼んじゃった!なんて嬉しそうに先生に言う姿の愛らしさについ笑みがこぼれた。
「それなら、喜んで。」
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