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深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第6章 堕ちる心と昇る泡


「…じゃあさ、ヤじゃねぇ?」
「なにが?」
「俺の事一番、好きなわけじゃないのに」
「限りなく一番に近い男であることは間違いないし、今はあんたとの関係を前向きに検討したいって思ってるとこだし、嫌ではないかな。」

てーか、付き合ってるって事実なのに、人に噂されて嫌がるほど身勝手じゃないよ
宿題をサクサクと進めつつ、は笑った。

「じゃあさ」
「なーに、喋らず宿題しなよ?終わんないよ?」
「もし、…先生が知ってたらどうする?」

ぴたり、と彼女の手が止まった。


「知らないよきっと…それに、私たちの関係を知ったとしても、
きっと、興味ないよ。」


一生徒の恋愛事情なんて、いちいち気に掛けていられないだろうし、
はノートに目をやったまま、笑いながらそう言った。

「…そっ、か」

俺も、もう一度ノートに視線を落とす。
(俺、ほんとに、ズルい男だ…)
先生の、あんな顔は今まで一度も見たことがなかった。
(心の奥が一切見えなかったんだ。)
優しい先生は、優しい"先生"だから、見せなかっただけで、先生も、きっと…


(俺と、同じ気持ちなんだ。)


「…」
「ん~?」

彼女の幸せを本気で願うなら、全て教えてあげることが、正解だと頭では分かってたのに。

「…すきだから」
「…」

彼女は、驚いて顔を上げてこちらをみた。

「…どうも」

嬉しさと、切なさと、複雑な気持ちが入り混じった笑顔が、俺にむけられる。

神様、ごめんなさい。
もう少しだけ、あとひと月だけ、俺に時間を頂戴。

(がむしゃらでも、振り向かせてやる。)

俺のそばでも幸せになれるって、証明したいから。


(続)
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