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深海のリトルクライ(アルスマグナ/九瓏ケント)

第5章 あまく やさしく もどかしく



放課後に定期的に学校の見回りをしていた時、いつも黒髪をなびかせて屋上に向かう女子生徒がいた。かれこれ一年近く、自分の見回り当番の日に見かけると思っていたが、当番以外の日も同じ時間に同じ場所で見かけ、どうやら毎日屋上に通っているという事が伺えた。
屋上が好きな、綺麗な黒髪の少女。
2年A組の担当になった初日に、やっと名前を知ることが出来た。

( 。)

暫く経つと降りてきて、スケートボードに乗って帰る少女。
やんちゃな生徒もいたものだ、と思いつつ、その日も屋上に向かう彼女を見送ったんだ。
どうせ施錠されていて入れないのに、若者の夢は無限大だなあ
なんてふざけた事を思いつつも、彼女が下りてくるのを待っていた。
しかし

(…まさか?)

俺は屋上に向かう階段をゆっくりと登る。

(わぁお)

落ちたナンバー式の南京錠を見て、思わず笑う、根気に乾杯だ。

僅かに開いたスライド式のドアから、屋上を覗き込む。
ゆらゆらと春先の光に包まれた黒髪が揺れる。
横顔に流れる煙、とわずかに見える煙草の火。

ふう、と息をつく横顔に、思わずどきりとした。

大人っぽい表情をする子も増えたものだ。
そう思いながら、彼女に声を掛けたのが最初だった。



「みーちゃった。」




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