第5章 あまく やさしく もどかしく
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そこから、何かと彼女と関わるようになった。
なんとなく気になるのは、生徒だからなのか、このクールな感じが心配なのか。
自分でもよくわからないまま、化学準備室で二人で煙草をふかしていた。
(バレたらとんでもないな。)
ふふ、と小さく笑うと、彼女は不思議そうに俺を見つめた。
「どしたんですか?」
「いーや、内緒」
「えー。」
煙草の似合わない、無邪気な笑顔を向けてくれるようになった時はびっくりした。
クラスでは泉…とは少しベクトルは違うが、さっぱりした性格で男女関係なく頼られるような姉御肌で。
(普通の男なら、勘違いするよ~)
ぶう、と頬をふくらましタバコの火を消す彼女を見て、また俺は小さく笑う。
(でもまあ、先生と生徒)
ただでさえいい歳の大人が女子高生に手を出すなんて許されざる事だ、
ましてや教師と生徒でそうなるだなんて言語道断。
「せーんせ。」
(なんだけど)
「…ずるいなあ、ちゃん」
「なにがですか?」
「そうやって甘えて~!煙草吸う機会ゲットするとこが!」
両手で彼女の頬をべちっと挟み込み、二人で笑う。
(俺にだけそんな顔見せるの、ズルイぞ。)
「あ、授業間に合わなくなっちゃう!今日も有難うございました。」
小さく頭を下げて、彼女は準備室を出る。
「はいよ~」
5時間目は空コマだったな、とぼんやり考えつつ、彼女にひらひらと手を振る。
「非行に走りがちな生徒は、心配。」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、煙草に火をつけた。
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