第2章 霞む赤髪に、夢
「ちゃん?」
あの後、日誌を渡すという名目で化学準備に来て、
いつも通り2人でソファに腰掛けて煙草をふかしてた、んだけど。
「あ、はい?」
「今日は一段と反応が鈍いね〜」
はは、と笑って先生はソファに深くもたれかかる。
「…アキラのこと?」
彼の名前を出されて、思わず肩がゆれた。
おそるおそるそちらに目をやると、先生の頬は見る見るうちに緩んで
「…図星。」
と嬉しそうに囁くものだから、空いている手で先生の肩を強く叩く。
「ち、がいます!」
「ま、泉には敵わないけどクラスで1.2を争う人気の男子になんか言われて、意識しない女の子の方が少ないよねえ。」
「え、見てたんですか!?」
「長年のカン。」
その瞬間、私は墓穴を掘った事に気づき、はっとなった。
「…で、なに言われたの?」
先生は嬉しそうに私の顔を覗き込む。
(やらかした…)
「…別に、なにも。」
「ま、言いたくないなら言わなくていいけど。」
先生は嬉しそうに私の顔を見て、こう続けた。
「の男らしくてさばさばしたところも素敵だけど、こういう女の子らしい所、アキラが見つけてくれたんだろうね。」
ふと見上げた表情は、やっぱりとても綺麗なんだけど。
後ろから差す夕日のせいで
(揺れる赤髪が、まぶたに焼き付いて、消えない。)
「せんせ、」
「ん?なーに?」
先生は煙草を灰皿に軽く押し付けた後、
もう一度ソファにもたれ、私の方を見た。
(『ほっとけない雰囲気』だったのは)
(素直になれない私が心配だったのですか?)
「”先生”、として…」
「、ちゃん…?」
私ははっと我に返り、落ちかけていた灰をすぐに灰皿に落とし、荒々しく火を消した。
「あ、すいませ…。もう6時前なんで、帰ります。」
「ん、了解。いつもありがとうな。」
たばこ、と先生は付け加えるように言った後、小さく笑った。
「いー友達もいっぱいいるんだから、あんま抱え込まない事!」
くしゃ、と私の頭を撫でた先生の顔は、いつもの笑顔で。
(せんせい、なんだ。やっぱり。)
私は急に悲しくなって、慌てて荷物をまとめて、弾かれるように準備室を出た。
「また、明日な!」
先生の声を背中に受けて、夏の夕日を正面から受けて。
(続)