第2章 霞む赤髪に、夢
「一番の親友だと思ってたのにさ〜、俺になーんも言わずに、知らないうちに学校で煙草吸う悪い子になっちゃうしさあ。」
アキラは足元を見つめたまま、
駄々っ子のように唇を尖らせて、言葉を紡ぐ。
「…最近は、休み時間になってもふらっとどっか行っちまうし、
…何してても、先生の事ばっか見て、先生の話しばっか。」
「…」
アキラは困ったように笑って、私をもう一度見る。
「俺も、煙草吸おうかな。それとも、髪、青くするかな。」
「あ、きら…?」
「…じょーだん。トレードマークなくなるし、
ダンスとバスケする時疲れんのもヤだし。」
「…でもさ」
くん、と繋いだ手を引かれ、そのまま教卓に座るアキラの胸に頭を埋めるような形になる。
「なーんで俺が彼女作らないのか、とか
なーんで俺が、お前にばっか構うのか、とか。」
(ちょっとは、考えてみてもいんじゃねーの?)
繋いだ手は、気づかぬうちにほどけていて、
その代わりに暖かい両腕で、抱きしめられていた。
「…なーんてね!」
先ほどまでの雰囲気が嘘のように、アキラはいつもの明るい声でそう言うと、ぱっと私を離した。
「ほい、日誌。」
「あ、りがと」
「どーせ行くんだろ?化学準備室。」
「う、…ん」
アキラはひょいと教卓から降り、自分の席の上にあったリュックをぱっと取ると、すぐに教室の扉に手を掛けた。
「普段は俺、鈍感だけど、お前の事はよくわかるって事、言いたかった。」
アキラは扉に手を掛けたまま、こちらも見ずに言葉を紡ぐ。
「お前が先生の事見てるのと同じように、俺も、お前の事、見てたから。」
アキラはぱっと振り返り、もう一度、太陽のような笑みを見せた。
「まだ、応援するとかは言えねえし、諦める訳じゃねえし、
…けど、今日は、日誌、任せた!」
じゃ!とアキラは短く挨拶をして、弾むように教室を飛び出した。
反射的に、開きっぱなしの扉まで駆け寄り、彼の後ろ姿を見る。
夕日に照らされて揺れる赤髪が、いつもより鮮やかに目に映ったのに、意味なんてないと自分に言い聞かせながら。