第4章 非日常 2
ここの苺タルトは絶品だ。池袋にあるケーキ屋さんの中でここが一番美味しいと私は思う。大粒の苺に甘さ控えめのカスタードクリーム、サクサクのタルト生地。あぁ、なんて幸せなのだろう!
などと考えていても、それはただの現実逃避でしかないわけで……正臣君と来た私はなかなか話を切り出せないでいた。
もともと私が正臣君に声を掛けた理由は愛の告白などではなくて、風紀委員長として染髪&ピアスを注意したかっただけなのだ。デートでもなんでもいいから注意さえできればそれで満足だったのだが
「実はオレ、先輩を見た瞬間一目惚れだと思ったんすよー!そしたら、同じ委員会で!これって運命?英語で言うとdestiny!みたいなぁー!?」
から始まり
「オレと付き合って」
という告白を通過し
「結婚しよう」
で、結末。
勿論、すべて
『無理です。ごめんなさい』
の繰り返し
正臣君もよく諦めないなぁ〜。というか早く諦めて欲しい。先程から周りからの視線が痛い。そりゃそうだ、店内で恥ずかしい素振りを一切見せずに大きな声で告白してくる男の子なんて最近はそうそういない
『______っ!!』
っふと外に目を向けると自動販売機が綺麗な弧を描いて空を飛んでいた
何が空を飛んでいた?
自動販売機が空を飛んでいた?
「どうしたんですか?……って平和島静雄だ」
平和島静雄なら、私も聞いたことがある。池袋最強の男だとか、自動喧嘩人形などと言う噂を耳にしたことがある
『ほんとにいたんだ……』
正臣君が指差す先には金髪でバーテン服をきた如何にも怖そうな男が標識片手に走っている
なんともホラーな光景だろうか!
平和島さんが追いかける先には黒い服の男の人。自動販売機やら標識やらありとあらゆる物を綺麗に避けている……ある意味すごい
「先輩」
『ん、なに?どーしたの?』
「あの人とは、知り合いですか?」
一気に正臣君の声が低くなった。驚いて正臣君を見ると、正臣君の視線の先には
『あの人って、黒い服の男の人?だったら私あの人のこと知らないよ』
「そうですか……良かったです!先輩絶対にあの人には関わらないでください」
『う、うん』
その時の正臣君がとても怖くて、只頷くことしか出来なかった
〔あ、髪とピアス注意してない!〕