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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第37章 幻



 ――今何処にいるのですか、一様……。


 目を閉じれば、まだ僅かに斎藤の姿を思い出せる。忘れたわけではない、勿論交わした約束のことも。けれど時は経ち、果たされない夢となるのではないかと思い始めていた。そんな志摩子にとって、嬉しいけれど複雑な知らせ。

 志摩子はぎゅっと自らの身体を抱きしめて、座り込んだ。また待つことしか出来ない。こんなにも歯がゆいことはない。



 暫くすると、外の光が漏れて誰かがやってきた音がする。視線を向ければ、そこには南雲と綱道がいた。


「貴方達は……っ!」

「申し訳ありません、志摩子様。我々雪村の分家ごときが、このような真似、どうぞお許し下さい」
「綱道様! これはどういうつもりですか!? 私を、どうするおつもりなのです!?」

「……我が娘、雪村千鶴は東の鬼の純血に当たります。本来なら、千鶴に鬼の世を統べってもらうべきなのですが……千里眼の力、蓮水の血はとても貴重だと伺っております。故に、志摩子様。貴方に、新しい鬼の世を統べる姫になって頂きたい」

「……何を、仰っているのですか?」

「南雲、彼女を出して差し上げなさい。丁重にお願いしますよ。鬼の、姫になるお方なのですから」


 南雲は無言で牢の鍵を開けると、浚ってきた時とは違い志摩子を抱き上げて牢から出した。抵抗しようとする志摩子に、南雲はぎろりと睨み付けた。

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