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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第37章 幻



「貴様に、確認しておきたいことがある」


 風間は何を思ったのか、抜刀し刃を斎藤へと向けた。けれど今までと違うのは、そこに殺気が感じられないと言うこと。斎藤も自らの刀の柄に触れ、風間の様子を伺う。風間は斎藤へと、問う。


「貴様に己の未来を懸けてでも、守りたい者はいるか。俺には、ある。貴様と初めて剣を交えた時から、変わらない想いが今もこの俺の中にはある。貴様はどうだ? あれから、何か変われたか?」

「……あの頃の俺には、新選組の刃となる以外に大切なことも守るべきものもなかった。ましてや、己の意思で守りたいと思える存在などありはしなかった。俺はこのまま、新選組と共に世を駆け桜のごとく命を散らすのだろうと……そう思っていた」


 斎藤も抜刀し、想いを突き付けるように刃を向けた。決意に満ちた瞳を、風間に向けて。


「俺の全てをなげうってでも、守りたい者がいる。俺はその者と交わした約束を果たすために、此処まで来た。俺は迷ってなどいない、後悔してもいない。新選組を離れ、己の剣が曇るではないかと一瞬だけ恐怖はした。だが、志摩子が……俺に教えてくれたのだ」


 穏やかな表情で、志摩子のことを想いながら斎藤は、はっきりと口にする。


「愛しいという気持ちが、俺に彼女を守りたいと思わせるのだと。俺は必ず、志摩子を守る。そのために、俺は今此処にいるのだから」

「……ふんっ、上出来だ」


 風間は刀を鞘におさめると、来いと一言告げると徐に歩き始めた。斎藤は息を吐いて、同じく刀を鞘におさめた。

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