第37章 幻
「随分と惨めな恰好をしているではないか。貴様ら、志摩子をどうした?」
「志摩子ちゃんなら……南雲薫に連れ浚われたよ」
「南雲薫……。綱道と関わりのある奴だな。となれば、用は済んだ。邪魔したな」
「待て!」
立ち去ろうとする風間に、沖田は声を荒げた。風間には、きっと志摩子を見つけ出せるという確固たる自信があるに違いない。ということは、彼に着いて行けば志摩子を助け出せるかもしれない。沖田はそう考えていた、だがそれを意図も容易く読み取った風間が、嘲笑するように言葉を投げた。
「その身体で俺に着いてくるつもりか? やめておけ、変若水で無理に身体を動かしているみたいだが、あれは貴様の不調を治すものではない。変若水とは、羅刹とは、貴様らが本来一生をかけて使う命の源を、力を使うことで前倒しして利用しているに過ぎない。つまり、羅刹の力を使えば使うほど、本人の命が削れていくということだ」
「……ッ」
「安心しろ、志摩子を殺すつもりなど俺には元々ない。志摩子は俺の妻になるべき鬼だからな」
風間が家を出ていくと、そこには更に見慣れた人物が立ちはだかるように立っていた。
「新選組と言うのは、似た奴らの集まりのようだな。俺をことごとく邪魔しに来る」
「風間か……」
風間の目の前には、新選組を離隊し志摩子の元へ走っていた斎藤の姿があった。肩を何度も上下させ、やはり此処まで急いで来たことが伺える。