第36章 紅
「もう追いかけっこは終わりかな!?」
「そうだね、これで終わりにしよう。志摩子ちゃんは下がって」
「わかりました」
沖田達の邪魔にならないようにと、志摩子は距離を取る。それを確認してから、沖田は深く構えて口を開いた。
「君さ、どうしてそんなに志摩子ちゃんを執拗に狙うの? 君の目的は何」
「ボクの目的……? 姉様と共に、鬼の世界を作って俺と姉様だけの世界で静かに、幸せに暮らすことだよ!!」
「幸せに……ね。君は、志摩子ちゃんの幸せを考えたことはある?」
「はあ? そんなの毎日考えているよ。だからこそ、こうして迎えに来たんだよ」
「あははっ、君は全然志摩子ちゃんのことを知らないんだね」
「なんだって……?」
沖田は瞬時に地を蹴り、物凄い速さで天の懐へと入り込む。以前とは格段に動きが違う沖田に、天は不意をつかれる。
「志摩子ちゃん自身の幸せは、彼女にしかわからないんだよ」
「く……っ!」
斬り上げた沖田の刃が、天の肩に傷を負わす。怯んだところを、沖田は天に向かって回し蹴りを食らわせた。見事命中した攻撃は、天をそのまま吹き飛ばす。沖田は休むことなく、天へと斬りかかっていく。
態勢を立て直した天が、薙刀で応戦し始める。
志摩子は一人、天の動きを目で追い何とか自分も沖田の役に立てないかと、思考を巡らせる。一歩先を見る力、今この瞬間に使えないでいつ使うというのだろうか。
「総司様! 斜め上から来ますっ」
「……っ!! あいよっ」
「ちっ……姉様の力はこれだから鬱陶しい!」
「蹴りが来ます!!」
「はーいはいっ」
沖田は余裕の笑みで的確に志摩子の指示に従い、瞬時に動きを変える。ことごとく志摩子のせいで、攻撃を外しまくる天はだんだんと苛立ちを募らせていた。みるみるうちに、天は鬼の姿へと変貌する。