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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第35章 誓



「ん? どうかしたの? 志摩子ちゃん」

「いえ……あ、あの。山崎様は今どちらにいらっしゃいますか?」

「船を手配しているところよ。何かあった時に、それで逃げられるようにね。もう随分と何もなく今日まで過ごして来たでしょ? 流石にそろそろ嗅ぎ付けられてもおかしくないんじゃないかって」

「そう……ですか」


 頭の中で、声が響き始める。これはたぶん、鬼にしか聞き取ることの出来ない声だ。


『姉様。その人を殺されたくなかったら、一人で外に出て来れるよね?』

「……っ。らん様!」

「な、何? どうしたの?」

「外の空気が吸いたいので、少しだけ外に出てもよいですか? あの、遠くには行かず家のすぐ外におりますので」

「ええ、いいわよ。アタシは今からご飯作っちゃうから、期待してなさい!」

「はいっ」


 私は一人慌てて外へと出ていく。出来るだけ、平静を装ったまま。外から出た私は、頭の中に響く声を頼りに海辺まで足を延ばす。ごめんなさい、らん様。

 走って、走って、走って。ようやく辿り着いた海辺には、忘れるはずのない彼の姿がそこにあった。


「姉様、やっと見つけたよ。会いたかった……」

「天……っ」


 天は私を見つけると、嬉しそうに抱き着いてきた。戸惑う私に、おかしそうに天は笑う。


「兄さんも此処を嗅ぎ付けてる。すぐ現れると思う、今のうちにボクと逃げよう? ね?」

「私は……っ」

「ボクだけが、姉様を助けてあげられる。守ってあげられるんだ」


 ぎゅっと抱きしめる腕の力が、強くなっていく。痛い……っ、誰か!

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