第34章 離
「金打(きんちょう)というらしい。武士が誓いを立てる際に、必ずその約束を守ることを示す行為だ。と言っても、俺達は正式な武士じゃねぇがな」
こうして二人は刀を再び、鞘へと戻した。
「武士の、誓い……」
「ふんっ、所詮真似事だ。だがこれは証だ。俺は必ず戻ってくる、お前も生き延びて俺に会うという証を今立てた。信じて待ってろ、死なずにな」
「……はいっ」
土方が陣を離れ、馬で江戸へと向かう中。新選組は戦の準備を整える。いつ敵が攻め込んできても、応戦できるように。
「なぁ、斎藤」
「なんだ、新八」
「どうして俺達は、こうなっちまったんだろうな……」
「……」
永倉の言葉は、じっとりと腹の底に溜まるような重い一言になる。原田も永倉の言葉を聞いていたが、答えることは出来なかった。思い描いていたものが、一気に形を変えて姿を見せる。今の彼の気持ちを、この場にいる誰も想像することが出来なかった。
「敵兵が来ました!!」
隊の一人が、声を上げる。前方に十人程度が押し寄せてきているのを、肉眼でも確認する。永倉が先陣を切るように、前に躍り出た。
「十人程度ってところか、なら此処で応戦すべきだな。行くぜ……っ!」
永倉は一気に相手の間合いに踏み込むと、鮮やかに斬りかかり敵は悲鳴を上げ倒れた。だが……不気味な笑みを浮かべながら、ゆらりゆらりと敵はまるで人形のように起き上る。