第34章 離

「援軍？」

「ああ。この後合流予定だった部隊が、江戸で待機している。援軍さえ到着すれば、江戸攻めも出来る。もう少しだけ、辛抱しちゃくれねぇか」

「……っ、あんたにそこまで言われちゃ仕方ねぇな」

「近藤さん、それでいいな？」

「ああ」


　土方は一人立ち上がり、江戸へ援軍を呼ぶために準備を整える。千鶴は土方を見送るため、一人彼の後を追いかけた。


「土方さん！　お気をつけて」

「千鶴、お前はすぐに此処を離れろ。まもなく此処は戦場になる。少しでも安全な場所へ、逃げ延びろ」

「土方さん……」

「此処まで連れて着ておいて、すまない」

「……お断りします」

「なんだと……？」


　千鶴はぎゅっと自らの両手を握り、土方へと顔を上げた。


「私は此処に残って、土方さんの代わりに近藤さんの盾となり命に代えてもお守りします！」

「……そんな命令しちゃいねぇよ」

「出過ぎた真似だとわかっています！　でも、私だって皆さんの力になりたいんです！　お願いします！！」


　勢いよく頭を下げる千鶴に、土方は大きく息を吐いた。


「ったく……。ならば、新選組の一員として最後まで尽力しろ」

「……！」

「返事はどうした？」

「あ、はいっ！　この雪村千鶴、命に代えても……っ」

「絶対に死ぬな」

「……えっ」

「盾になろうなどと、馬鹿なことは考えなくていい」

「……土方さん」


　二人の間に、はらはらと桜が舞い落ちる。土方は刀の柄に手を置くと、半分だけ鞘から抜いては千鶴にも小太刀を同じように抜くように指示する。みねを互いに向けて、刃を少しだけ打ち合わせた。