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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第33章 心



「アンタに限らず、人は皆無力なもんよ。この手で守り切れるものなんてね、とても限られているの。人を一人助けることでさえ困難なのに、何人も救おうだとか全員助けようだとかそんな驕ってんじゃないわよってアタシは思う。でも……」


 両手いっぱいにどれだけのものを拾って、集めようとも全て零れ落ちていく。


「だからこそ、人は最も大切な人を見つけ出して、その人のためだけに戦おうって思うんじゃないかしら。守ろうって、思うんじゃないかしら」

「ただ、一人の人のために……?」

「そうよ。志摩子ちゃんにはいる? ただ一人、守りたい大切な人」


 浮かぶ顔は沢山あれど、志摩子の心を占めるのはたった一人だけ。


「……います。とても、大切な人が」

「ならその人のために、アンタは今より強くなりなさい。次に会った時に、その人を守ってあげられる自分になるために」

「はい……っ」


 守りたい。ただ一人の人を。大切な、誰かを。

 志摩子はぎゅっと、自らの両手を握りしめて胸に抱く。喧騒は遠く、彼方へと押し出されていった。


「時代が変わろうとも、アンタはそのままでいなさい」


 彼の言葉が、やけに志摩子の心には重く響いた気がした。

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