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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第29章 鶴



「私は、南を統括する南雲家の者。声を上げられては困ります。どうです? 私の話を聞く気はありませんか? と言っても、貴方が断れば屯所にいる隊士達を皆殺しにします。わかりますね? 鬼の、私が、するのです」


 鬼という言葉を聞き、一層志摩子は慎重になる。此処で断れば、鬼ならば隊士達を皆殺しにすることも可能だろう。志摩子は黙って、頷いた。


「いい子ですね」


 そっと南雲は布を離した。けれど志摩子の身体を拘束し、自由だけは奪う。


「南雲家の者が、どうして新選組の屯所などに?」

「わかりませんか? 貴方が……いるからですよ」

「私? 私が、一体貴方と何の関係があるというのです」

「……そういえば、土方さんから櫛は受け取りましたか?」

「櫛?」

「蝶と毬の模様を施した、貴方にとって思い出の品だったのですけど。その様子ですと、受け取っていないようですね」

「何の話ですか」

「まぁ、いいでしょう。蓮水が変若水の研究をしているのは、知っていますよ。綱道さんは私達と共にいます。貴方の力が必要なのです。変若水を完全な物とし、鬼の世界を作るのです」

「鬼の世界? 何を馬鹿なことを……」


 南雲の顔が、ぐいっと志摩子へと近付く。千鶴と瓜二つの顔。とても、それが嫌な感覚を思い起こさせる。けれどそれが何なのか、どうしても志摩子にはわからなかった。


「蓮水天は、どうしていますか?」

「……知りません」

「彼は私達が作った羅刹隊を奪って、人間を滅ぼすつもりでしょう」

「あの子がそんなこと、思うはずもありません。蓮水を勝手に出ていったあの子は、ただ蓮水から解放されたかっただけで」

「何故解放されたかったのか、貴方は御存じですか?」

「……それは」


 志摩子にも天が家を出た理由は知らなかった。兄達から聞かされることもなければ、教えてくれる人もいなかった。ならば彼は家が嫌になったのだと、そう思うほかなかった。けれどもしも、別に理由があるというのなら。それが真実だというのならば。


「蓮水天は、貴方の護身鬼なのですよ」


 南雲が志摩子の耳元で、そう囁いた。

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