第29章 鶴
「志摩子君は、斎藤さんのことをよく考えているのか?」
「え……?」
明るい場所に出てきて、ようやくはっきりと相手の顔を確認する。志摩子は目を丸くした。そこに立っていたのは、斎藤などではなかった。
「山崎様!? も、申し訳ありません!! 私ったら、なんて失礼なことを……」
「気にしないでくれ。俺が、そっと近づいたせいでもある。それより、怪我はないだろうか」
「はい、山崎様のお陰でまったく怪我はありません。助けて頂きありがとうございます」
「それならよかった。俺は一度、山南さんの様子を見てくる。君は自分の部屋に戻っているといい」
「ですが……」
「心配せずとも、必要でない限り俺が山南さんを斬ることはない。だが……もし正気を失って、ただの化け物になり果ててしまったとしたら。その時は、わからない」
「山崎様……っ!」
志摩子が引き留める声も虚しく、山崎はすぐに先程の部屋へと戻っていった。追いかけたところで、結局は山崎の足を引っ張ることになる。わかっていたからこそ、志摩子はそれでもせめて……と。外で座り込んで山崎の帰りを待っていた。
まさか山南がそんなことになってしまうなんて、予想できなかった。
「危険な目に遭うと、護身鬼の皆さんにも……迷惑をかけるのでしょうね」
昨日の千姫の言葉を思い出しては、一体どんな人が護身鬼になってしまったのだろうと考えてみる。けれど幼い時から家の者達に守られ、大事にされながら何も聞かされてこなかった彼女に答えが見つかるはずもなかった。
また自分は、何も出来なかった。こんなにも、もどかしい気持ちを頂くのは初めてで。でもそれは、確かに自分に大切なものがある証。助けたい、役に立ちたい、出来ることをしたい。望めば望むほど、同じ女でありながら刀も握れない。戦で新選組の助けになることも出来ない。
比べては、落ち込んでいく。