第22章 遙
「は、一様……っ」
「見るな! み、見ないでくれ。今俺は……変な顔をしていると思う。お前にだけは、見られたく……ない」
「初々しすぎるぜあんた達! あーあーもう大根持ってけ! いいもん見せてもらったお礼だ!!」
「あ、ありがとうございます……」
志摩子はおずおずと大根を受け取った。
「そこの夫婦! こっちの果物を持ってけ!!」
「そうだそうだ! この魚くれてやる! 美味いもん食って元気な子でも産めよっ!」
「あんた達、あたしらの育てた白菜もってけ! 今日はおまけだ!!」
「え、ええええッ!?」
何故か現場を見ていた店の者達が、志摩子達に一斉に声をかけて次々と食材をおまけだとかわけのわからないお礼だとか、混乱するような言葉を並べながら渡していく。
そのせいで斎藤はついにうずくまり、襟巻で顔を隠してしまった。
「一様! たっ助けて下さい!!」
志摩子の声も虚しく、彼女は一人店の者達に捕まり続け食材を押し付けられていた。
◇◆◇
陽が落ちて着た頃、ようやく解放された二人は肩を並べ屯所までの道を歩いていた。
「知らない間に大量の食材を持ち帰ることになりましたね」
「そうだな……予想外の展開とはいえ、うちは大食いが多い。これは嬉しい誤算ともいえる」
「それは……そうなのですが。散々夫婦だと冷やかされてしまいましたね」
「……っ。い、嫌だったか……?」
「え!? そ、そんな! 嫌だなんてとんでもないです。嬉しかったですよ」
「嬉しかった……? それは、本当か?」
心底驚いた表情で斎藤が問えば、志摩子は照れくさそうに微笑んだ。