第2章 1日目
「私はここから少し離れた村の狩人です」
「あぁ、あそこの」
最初こそお互いに警戒しあっていたものの、幸村はすぐに話しかけてくれるようになり、私は気持ちが落ち着いた。
勿論猟銃は片手に置きながら様子は伺っているのだが。
だが佐助はまだその猟銃をじぃっと見つめている。
「某は虎、佐助は狐なのだ」
「この辺にいたのですね」
「漸くここにおる」
私の村で狐や虎が出るなどという話は聞いたことがなかったので、漸くいたと聞いて少し驚いた。
もしかしたら人の姿をして度々村の辺に来ていたのかもしれない。
「...そういえば、御家族は」
「殺されたよ」
「佐助、よせ」
私はどうやら、いけない事を聞いてしまったようだ。猟銃を見ていた佐助の目は私を見つめていた。
「あんたら狩人に、その猟銃でね」
「佐助っ」
幸村は悲しそうな顔をしながらも、私を庇おうとなにか言葉を捻り出そうとしていた。
そうだ、とその時改めてわかった。私達狩人は獣達の命を奪い暮らしていた。勿論その獣達にも家族はいるのに私達人間の勝手な都合で家庭を壊していたのだ。
「...すまぬ、佐助が」
「私達のせいで、あなた方の御家族が....っ」
「お主は、何もしておらぬだろう....!」
幸村は、私の両手を強く握って悪くないと言ってくれている。
「お主も某らも、命は皆平等でありそれを絶やさぬ様に生き、生を絶つのは仕方のないことだ」
「で、でも」
「旦那、明日の為に早く寝た方がいい」
佐助の目線が私の脳天を突き抜けるようだった。決して比喩ではないと言いたいくらいに、本当にそうだった。私の脳を貫き、まるで私達狩人の存在を否定するが如く舌打ちをする。
「...殿、明日は某らは東の方へ行こうと思う。そこには住まいがあるのだが、共にどうだろうか」
「ちょ、何言ってんだよ」
「おなご一人を放っておけるか」
ついていくなど申し訳ない、そう言いたかったが幸村が目で止めてくる。
佐助も渋々了承したのかこの穴蔵の出入り口付近に座り、目を閉じた。
本当に申し訳ない、そう思いながら私は少し奥に入って眠りにつくことにした。