第9章 8日目
「ん、んん...」
「そのうち慣れると思いますぞ」
あの後ゆっくり寝てしまって、気がついたら夕方になっていた。ぼうっとしていた私を幸村は外に連れ出してくれて今は森の奥にいる。
「変な感じです。私も幸村達と同じになれただなんて」
「某もそう思いまする。だが、その...」
「ううん、幸村のせいじゃないですからね?私が勝手にやっただけなので」
幸村は真面目すぎるのだ。きっと彼の良い所なんだろうが、何でも自分の事の様に張り切り、悲しみ、笑ってくれる。
過去の事を、もっと沢山聞いてみたい。
「幸村って、人間の時はどんな事をしていたんですか?」
「尊敬する方の隣でこの日ノ本を逞しく美しく育てたいと願い戦っておりましたな」
「思う通りの日ノ本に、ここはなりましたか?」
そう聞くと、幸村は嬉しそうに笑って大きく頷いた。
「あぁ!」
なんて素敵な人なんだろうか。
私と同じくらいの歳で大きなもの背負い、私には考えられないくらいの様々な苦悩と戦い、第一に未来のことを考え、若いながらも努力を怠らないその姿勢が何よりも誰よりも美しいと思った。
「綺麗ですね」
「綺麗?」
「そうです、綺麗」
遠い昔の話を思い出しながら話してくれたその横顔が、綺麗だった。
「幸村が綺麗ですよ、輝いて見えます」
「なっ...!?」
急に顔を真っ赤にさせて慌て出す。
「まだ会ってから少ししか経ってないけど、その短い間で幸村が好きになりました。本当は幸村から想いを聞いた時、直ぐにでも私の気持ちを聞いて欲しかったです」
もうその時から既に惹かれていた。
あの時はまさか恋愛経験もない私が初恋から両想いになるだなんてと予想外だったけれど、とても嬉しかった。
「...もう某達を隔てる物は何もありませぬな」
何かが落ちていくような気がした。それは、私達を今まで縛り付けていた人間と獣の運命。
「其方を離したくない、某...いや、俺は醜い男だ。恐らく佐助達と話されるだけで焼き餅を焼くやもしれぬ」
それでもいいのか?
と。
「...当たり前ですよ、寧ろ、とても嬉しいです」
なんて、美しい笑顔なんだろう。
なんて、幸せな気持ちなんだろう。
なんて、不思議な運命なんだろう。
「この手から、逃しはしませぬ」
「幸村こそ、離しませんからね」
揺るがぬ絆、此処に有り。