第8章 7日目
正直もうどうでも良くなってきてしまった。私としては死にたくないし、まだやりたいことが沢山ある筈なのに何もかもがどうでも良くなってきた。
大好きな仲間が、村の人に殺されてしまった。
私はその時、動物達の狩られる気持ちを理解した。
「嘘、嘘だよ...ッ!」
「殿」
耳に届いた声は、妙に落ち着いた幸村の声だった。
「これが運命にござる」
「ま、まって、下さい」
「某らは、動物。其方は人間。越えられぬのだ」
そういうと、私を立ち上がらせ猟銃を握らせて、村の方へ背中を押された。反動で何歩か進み振り返ると、それはなんだか、近いようで遠い生命の隔たりを感じる距離が見えたような気がした。
お母さんが崩れ落ちそうになる私を抱きかかえて心配してくれる。
私には家族がいる。
幸村には...もういない。
「、立てるな。殺せ」
頭上から降ってきた残酷で冷徹な言葉が全身に突き刺さるようだった。顔を上げれば、優しい微笑みを浮かべるお父さんじゃなかった。狩りをするときの、命を潰す時の狩人の目だった。
「な、何言ってるの...?」
「あの獣は最早動けない、止めはお前がしろ」
訳も分からず幸村を見る。
彼の足は、もう使い物にならないことくらいわかる。目のやり場に困るほどだった。辛うじて心臓を守ったのであろう、右手で胸の辺りに拳を作っている。
「お前はまだ大物をとっていないだろう」
ほら、と私に猟銃を構えさせる。
標的は幸村。
「やだ、やだよ!ねぇ、お父さんっ!!」
銃口が幸村を見つめ、震える手はお父さんが止める。なんで私はよくしてもらった人を殺さなくてはならないのか、何故私はこうして反抗できずにいるのか。
なにもかも、わからなかった。
「殿」
優しい声が聞こえる。固く瞑っていた目をゆっくり開いて、声のした方を見つめると幸村がにこやかな顔で私を見ていた。
彼は何で落ち着いているんだろう。
「殿に殺されるのなら本望」
「逃げてよ...逃げて下さいよッ...」
「殺せ!」
後ろからお父さんの声、目の前から幸村の声、頭の中では私の声が反響してぐるぐる渦巻いていた。引き金には私の指がもう掛かっている。
「幸せになってくだされ」
「やだぁぁぁぁ!!!!!」
私の声と同時に、終結の銃声が鳴り響いた。