第7章 6日目
パァンッ!
──...もと、
また聞こえた。
──......もとめ...
何だろうか。私に話しかけている?銃声にまぎれて聞こえたようだが、私は紛らわされない。雑音が入ればすぐにわかる。
「殿?」
「あ、いえ...」
今は最後の練習として幸村についてきてもらっている。佐助と風魔は周囲に異変がないかと探ってくると言って、朝話してから直ぐに小屋を出ていった。
「...疲れておるのではありませぬか?」
「大丈夫、ですよ」
「いえ、疲れておりますぞ」
一休みいたしましょうと、私の手を取って岩の上に腰を下ろした。
「明日の朝ですな」
「はい...、本当にお世話になりました」
「某こそ。お主に出会えて本当に良かった」
悲しそうに言ってるのは、少しは寂しいと感じてくれているからか?だとしたら、嬉しい。
「きっと某らはまだ生き長らえるだろうが...絶対に、絶対に殿を忘れはいたしませぬ」
何十年、何百年先も、と。私の両手をぎゅうと握り締めて私の目を見て、そう言ってくれた。
「私も。お婆ちゃんになっても天国にいっても、絶対に忘れません」
こんな不思議な出会いを忘れる訳が無い。
決して言葉を交わすことができないであろうと思われた人間と獣が、こうして意思疎通を成功させたのだ。
「...某は、初めての気持ちでありました」
「初めての気持ち?」
「他人を此処まで想うこと、にござる」
それはと私が聞くと、恥ずかしそうにはにかんでから向き直った。
「好いておるのだ、殿を。」
「え...」
「許されぬことだとは承知の上。人間と獣は交わる事のできぬ運命だと言うのは、わかっておるのだ」
この顔は、前に佐助のことを話してくれた時の顔と同じだ。
「そなたの気持ちを聞こうとは思うておらぬ。殿には殿らしく、人間らしく生きていて欲しいと思います故!」
その言葉が、心に深い傷をつくった。
何故そのように突き放した言い方をするのか。
「幸村、私も」
「鍛練を始めましょう!」
私の言葉を遮り、猟銃を押し付けてきた。
「今度は飛ぶ鳥を落としましょうぞ!」
妙に張り切り始めてしまった幸村の勢いを止めることができずに、そのまま話は流れてしまった。