第3章 ++いつもオレに幸せをくれていた++
オレはと言えば、話について行けずわなわなと手を震わせるだけで。
「あなた」
アレスはそんな情けないオレの手を取り、しっかりと握り締めて穏やかに微笑んだ。
「元気な子を産めるように、頑張るからね」
「あ…う…」
既に母親の笑顔になっているアレスの顔を見て、何故か自分の幼少期が走馬灯のように駆け抜けた。
大好きだった父と母。
オレもようやく、命を紡ぐ側になったのだ。
オレは尊敬する父のような、子に恥じない親になれるのだろうか。
「ガイ先生、アレスさんに何か言ってあげないと!」
あまりの衝撃に、言葉を失ってしまったオレの背をリーが押す。
「あ…その、だな…」
遠慮がちにアレスの腹を撫でる。
「ここに…居るんだな?」
「そうよ。ガイと私の子よ」
お互いの血を分ける確かな“繋がり”がアレスの胎内に芽吹いた事は、とても不思議でまだ実感がなく、しかし魂が歓喜して体を熱くさせた。
「うぉぉおおお…っ」
涙が頬を伝わり、震える唇はただの音を口から零すだけ。こんなに熱い涙を零したのは、いつ以来だろう。感動して言葉にならない。
「ガイったら、産まれる前からそんなに泣いて」
つられたように涙を浮かべるアレスを、オレは強く強く抱き締めたのだった。
──今日と言う日を忘れないように。
彼女の存在で得られる幸せを一生忘れないように。
オレはアレスの腹を撫でながら、ありがとうありがとうと囁くのであった。