第1章 キーホルダー
今日もまた相変わらずキョーちゃんは読書をしていた。
だから俺もいつものようにソファに寝転がって自分の本を広げようとした。
ふとローテーブルを見ると少しだけ色褪せたいつかみたキーホルダーがついた鍵。
俺の記憶が正しければあのときのものだ。
「これって?」
「丹羽先輩に貸してあげます」
「は?」
「うちの鍵です」
「あ、ありがとう。いや。そうじゃなくて」
「要らないんですか?」
「そうじゃない。いるよ。当たり前じゃん。
鍵じゃなくてこっち」
「ああ、丹羽先輩から頂いたものです」
やっぱり。
中学の頃キョーちゃんの鞄に無理矢理つけたキーホルダー。
悩みに悩んで彼女に合いそうなものがなくて自分が気に入ったものを買ったんだ。
それが目の前にある。
「まだ持ってたの?」
「先輩に会わないように実家に帰ったときに母がくれました」
多分あの一ヶ月間のことだろう。
最初の2週間ほどは実家に帰っていたと聞いた。
どう頑張っても会えなかったのは彼女が此処にいなかったから。
通勤時間を犠牲にしてまで会いたくなかったのは少し傷付く。
終わった話なのだけれど。
「何でそれがここにあるの?」
「鞄は捨てたらしいんですけど これはとっておいてくれたみたいです。
私こういうの嫌いなのにつけてたから思い入れあると勘違いしたみたいで」
いや 嫌いなのにつけてたんだったら それは勘違いじゃなく事実でしょ。
「これ 丹羽先輩に似てますよね」
「少し邪魔なところが?」
彼女は当時そう言いきっていた。覚えてる俺はかなり気持ち悪いな。
彼女からすれば何となくの言葉なんだろうけど俺はしっかり覚えてた。
「いえ なんか急にやってきて私の覚えてない私を引っ掻き回すところ」
「嫌ってこと?」
「嫌じゃないから嫌なんです」
自惚れていいよね。
あの時邪魔だったものが使い古されて今此処にある。
きっとあの時から少なくとも中学卒業までは其処にあったままだったのだろう。
キーホルダーと彼女から貰ったジッポを並べてみた。
不釣り合い。子供と大人。そんな感じ。
十何年の月日を越えて出会った俺たちの空白が埋まった気がした。なんとなく。