第6章 貴女の笑顔に、私は
びくり、と震えた魔物は私の方に向きをかえ、地の底から這い出るような唸り声を響かせる。
「ルシウス!!止めて!」
エレインの悲痛な叫び声も聞こえるが、私は止める気はさらさらない。
「来れば?」
そう、鼻で笑うと魔物は跳びかかってきた。紙一重で避けるも、次の攻撃はかわせない。がぶり、と肩に噛みつかれる。
「あぐっ!」
「…!」
エレインの悲鳴はもう聞こえない。
噛まれている所から血が後から後から流れてくる。ぷつ、と皮膚を切る痛みは焼けた針を刺し込まれてるようなずきずきとした痛みに変わった。焼けた針なんて刺されたことないけど。
「ぐっ…!?か、かはっ…げふ…」
胃が引っくり返るような痛みが襲ってきて、口から血があふれでる。くっそ、何で今…!
「げほっ、ごほっ…がっ、は…」
止まらない。全身に鈍痛。肩には焼けた針、もとい、牙。限界だった。意識が遠退いていくのがわかる。その時だった。
「ルシウス!!」
『ルシウス!!』
エレインの叫び声に居ない筈の彼の声を聞いた気がした。一気に目が覚めた。
「死んで…たまるかぁっ!!」
魔物が吹っ飛ぶ。闇が目の前を包む。でも、いつもとは違う。前が、綺麗に見えてる。
闇に抗ってるせいか、全身が焼かれるように痛い。でも、気にしない。
魔物は再び跳びかかってくる。魔物の動きがゆっくりに見える。私はなんなく真横に回り、横っ腹を殴り付けてやった。
キャン、と可愛らしい鳴き声をあげてえげつない勢いで木に突っ込んでいく。しばらくピクピクしていたが、やがて動かなくなった。
「…ルシウス?」
おそるおそる声をかけてくる人。私の腕はびくり、と反応したが、反対の腕で押さえつけた。
まて、焦るな私。この人は…えっと、そうだ。エレインだ。敵じゃない。
エレインを認識できると、私を覆っていた闇はするすると消える。
残されたのは私と、エレインと、静寂と、身体中の恐ろしいほどの痛みだった。
「い゛っ…!?」
「ルシウス!?」
痛みに耐えれずに倒れ込むと、エレインがかけよって来てくれた。私の頭を膝に乗っけて、私を見ている。泣いていた。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿…!なんで、あんなことしたのよ!?」
「エレインの為なら…馬鹿でも、良いかな。」
馬鹿じゃない、と呟くエレインの顔を見ながらゆっくり意識を遠退かせていった。